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広島高等裁判所岡山支部 昭和42年(行コ)4号 判決 1973年10月15日

第三号事件控訴人、第四号事件被控訴人(第一審原告)

横溝澄三

右訴訟代理人

岸本静雄

第三号事件被控訴人第四号事件控訴人(第一審被告)

岡山県倉敷県税事務所長

白神雄次

右訴訟代理人

杉本義昭

主文

第三号事件につき、控訴を棄却する。

原判決中第一項を取消す。

第一審原告の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ、一審原告の負担とする。

事実

一、申立

1、第一審原告

原判決を次のとおり変更する。

第一審被告が昭和三五年八月八日付でした、訴外株式会社横溝商店に対する昭和三一年度および昭和三三年度の法人事業税および法人県民税につき、第一審原告を第二次納税義務者とする納付告知処分を取消す。

第四号事件につき控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

2、第一審被告

主文同旨

二、当事者双方の主張および証拠関係は、次に訂正、付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1、訂正事項

原判決二枚目裏五行目の「重加算金」の後に「の課税処分をしたが、これ」を加え、同三枚目表一一行目の「昭和三一年度分」を「昭和三三年度分」に改め、同四枚目表一二行目の「設立当初」の前に「昭和二六年三月一日の」を加え、同裏五行目の「戒町」を、「戎町」に、原告の立証中「証人安田泰一」を、「証人安田恭一」と、被告の立証中「証人浅倉嘉男」を、「証人朝倉嘉夫」に、同別紙第一目録一、(一)ロ税額の三枚目の「岡山県条例四七条(昭和二九年五月改正)」を、岡山県税条例(昭和二九年岡山県条例第三七条)第四七条」に、同一、(二)、ロ税額の三段目の「岡山県条例三九条」を、「岡山県税条例第三九条(昭和三〇年岡山県条例第二八号による改正後のもの)」に、同第一目録二、(一)、ロ税額の三段目の「岡山県条例四七条(昭和三三年四月改正)」を、「岡山県税条例第四七条(昭和三二年岡山県条例第三七号による改正後のもの)」に、同第三目録および同第四目録中の「倉敷市戒町」および「戒町」を「倉敷市戎町」および「戎町」に、それぞれ改める。

2、付加事項

(一)  第一審原告の主張

(1) 横溝商店の事業損益は昭和三一年度分が一一万三二〇〇円の益金があつたにすぎず、昭和三三年度分は二三一万八一五〇円の損失となつている。

(2) 地方税法第一一条の六の規定は、昭和三四年法律第一四九号により新設され、昭和三五年一月一日から施行されたものであるが、租税債権は、課税年度に従つて課税要件に該当する事実の存在に伴い当然客観的に発生するものであるから、第一審被告は、法律施行前の課税対象である横溝商店の昭和三一年度および同三三年度の法人事業税、法人県民税につき同条を適用したのは違法である。

(二)  第一審被告の主張

(1) 本件土地、倉庫の昭和三五年当時の固定資産税の評価額は五万三九六六円と二〇万一〇〇〇円であるからその時価は横溝商店の本件滞納税額をこえるものである。

(2) 地方税法は、昭和二九年法律第九五号により全面的に改正され、事業税は課税標準たる所得の算定方法を所得税または法人税のそれに合わせることとし、地方税法第七二条の一四、同条の三九の規定は、この旨を規定したものである。

したがつて第一審被告が、本件法人事業税額を倉敷税務署長のなした法人税の課税標準に基づいて更正決定したことは違法である。

(3) 第一審原告の前記主張(2)については、地方税法第一一条の六の新設施行の時期は認めるが、本件については横溝商店に対する更正の通知が昭和三五年六月二八日に納期限を同月二九日としてなされたから、右法条の適用があることになる。

(三)  証拠関係<略>

理由

一第一審被告が昭和三五年八月八日に第一審原告に対して、横溝商店の昭和三一年度および昭和三三年度の法人事業税、法人県民税および過少申告加算金、重加算金の滞納があり、これにつき、第一審原告を地方税法(昭和三四年法律第一四九号による改正後のもの)一一条の六の第二次納税義務者として納付告知をしたことは当事者間に争いない。

二まず、本件につき前記法条の適用の当否につき検討する。右法条は、同法一一条(通則)とともに、前記法律第一四九号により第二次納税義務として整備、新設(一一条の六は後者に属す)されたもので、改正法附則四条には、右新法条は、改正法施行(昭和三四年政令三三六号により昭和三五年一月一日と定められている)後に滞納となつた地方公共団体の徴収金について適用し、右施行前の分については従前の例による、旨規定している。

地方税法(当時の条文による)の法人事業税、法人県民税の徴収に関する定めをみると、当該法人の申告納付制度をとり、更正、決定等があつた場合には知事が当該法人に通知したうえ、徴税吏員が不足額を通知して所定の納期限に徴収することとし、右期限に完納がない場合は督促状を発し、更にその指定期限までに完納がないときに国税徴収法の規定による滞納処分の例によつて、処分することを原則としている(五三条、五五条、五六条六六条、六八条、七二条の二六、二八、三九、四二、四四、六六および六八、法人税法一九条、二一条が基本規定である)。

地方税法の第二次納税義務の規定は、第一次納税義務者が徴収金を滞納して、個人に対して滞納処分をしてもその目的を達することができないと認められる場合に、同人と特殊の関係のあるものを第二次納税義務者として、右徴収を確保するものであつて、一一条の六については両者を事業を共にし収益を同じくしているものと理解し、または形式的には第三者(第二次納税義務者)に帰属しているが、実質的には納税義務者(第一次)に帰属しているともいえる財産につき、右形式による私法秩序を尊重し(その否認取消をしない)た上で、徴収手続上は責任財産として把握したものともいい得る。

右規定の内容、趣旨からすると、前記附則にいわゆる滞納となつた地方公共団体の徴収金とは、更正、決定のあつた場合には、徴税吏員が徴収金の不足額を納税義務者に通知し、右所定期限を経過した状態にあることをいうと解するのが相当である。

本件において、第一次納税義務者に対する前記通知(更正を前提とする)が昭和三五年六月二八日にあつたことは第一審原告の明らかに争わないところであるから、本件には改正後の法律が適用されるものである。

第一審原告は徴収金滞納とは納税義務発生の意であると主張し、その納税義務発生とは当該法人の事業年度の終了による抽象的納税義務の発生換言すれば徴収金の法定納期限(更正、決定等に基く期限を含まず、地方税法またはこれに基く条例の規定による納付期限)をいうものと解せられるが、右改正法の一一条の四および八に、前記附則と異なり右法定納期限の表現が採用されていることからも、右見解は正当なものとはいえない。<証拠>によれば、倉敷税務署長が本件と同年度分を含む横溝商店の法人税等に関して、同会社から営業の譲渡を受けた横溝物産株式会社に対し一旦国税徴収法三八条(昭和三四年法律第一四七号により新設され、前記地方税法と同様に施行された)により第二次納税義務者とした処分を取消し(もつとも、その理由は右会社が同条に該当しないというものである)、右譲渡契約が横溝商店に対する租税債権を害するものとして、その取消訴訟を提起したことが認められるが、このことは前記判断を左右するものではない。

三第一審被告の横溝商店に対する本件更正処分、同商店の解散および右更正による徴収金の滞納については第一審原告が明らかに争わないところである。

第一審原告が横溝商店の株主であり、右事実を判定の基礎として、横溝商店がいわゆる同族会社となること、第一審原告が本件土地倉庫を所有し、本件両年度間これを横溝商店に賃貸していること、横溝商店が荒物、雑貨、家庭用品等の販売を業とするものであることは当事者間に争いがない。

昭和三五年当時の本件土地、倉庫の固定資産税の評価額が五万三九六六円と二〇万一〇〇〇円あつたことについては第一審原告が明らかに争わないところで自白したものとみなし、右事実と<証拠>を綜合すると、

1、横溝商店は、昭和三五年五月二三日設立された横溝物産株式会社に、その財産を全部譲渡して、前記解散に及んだもので、前記滞納税金を納付する資力はなかつたこと、

2、横溝商店の前記営業のためには商品を格納する倉庫が必要であり、原判決別紙第四目録記載の倉庫も他から借用していたが、本件倉庫が店舗との位置関係からする立地条件等からもつとも重要なもので、元町倉庫とともで、全商品の約二分の一を格納しており、横溝商店の営業遂行に不可決の財産であつたこと、

3、第一審原告は本件倉庫の使用料料を昭和三四年三月三一日までは無償、その後は月額一〇〇〇円としていたが、当時岡山県下における倉庫の適正使用料は坪当り月額三五〇円以上であつたので右使用料は非常に低廉であること、

4、昭和三五年当時の本件土地および倉庫の時価は横溝商店の本件滞納税額をこえるものであること

が認められ、前掲第一審原告の供述(原審分)中右認定に反する部分は採用しがたい。

以上の事実関係からすると、横溝商店は本件倉庫およびその敷地である本件宅地を使用することによつて適正賃料を支払わなかつただけ利益を得て、その所得を得たものというべきであり、第一審原告は横溝商店の本件更正処分による滞納税につき地方税法一一条の六により第二次納税義務があるとする本件納付告知処分は適法である。

四第一審原告の主張には、横溝商店に第一審被告の更正処分の根拠としているだけの事業所得があることを争い、ひいては右更正処分およびこれを前提とする本件納付告知処分が違法であるとの点も含まれている、と考えられるので検討する。

課税処分について、その根拠となる課税所得がないことは、特段の事由のない限り、右処分の取消原因となるに過ぎない(無効原因ではない)ものであり、第一次納税義務者に対する課税処分と第二次納税義務者に対する納付告知処分は、その間に関連はあるけれども、別個の行政処分である。

すなわち、第二次納税義務は、前示のように主たる納税義務者の財産に対し滞納処分をしても徴収すべき税額に不足すると認められる場合に、専らその租税の徴収を確保する手段として補充的に課せられるものであるから、その実質は主たる納税義務の徴収手続の一つにすぎないものといわなければならない。

したがつて、第二次納税義務が徴取手続上のものである以上、課税処分と滞納処分との間に違法性の承認が認められない原則から、納付告知処分を争う第二次納税義務者は、これに固有の瑕疵を主張すべきものであり、第一次納税義務者に対する課税処分の瑕疵をその理由とすることはできない(無効を主張する場合は別である)と解するのが相当である。もっとも、第二次納税義務者が第一次納税務義者に対する課税処分の瑕疵を全く争い得ないとするのは相当でなく、右課税処分についての抗告訴訟(したがつて、納付告知処分に対する抗告訴訟とは別訴になる)における原告適格は肯定すべきものである。

本件においても横溝商店に対する課税処分(更正処分)を無効とすべき特段の事情の主張はなく、右処分が取消されたことも窺われないので、第一審原告のこの点に関する主張は採用しがたい。

五以上の次第で、第一審被告の本件納付告知処分は適法と認められるので、これを違法としてその取消を求める第一審原告の本訴請求はいずれも失当として棄却を免れないので、これを一部認容した原判決は右趣旨に変更すべきであり、第一審原告の控訴(第三号事件)を棄却し、第一審被告の控訴(第四号事件)を理由ありとして、民訴法九六条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(辻川利正 永岡正毅 熊谷絢子)

【参考・第一審判決】―――――――――

(岡山地裁昭和三六年(行)第二号、課税処分取消請求事件、同四二年三月二九日判決)

主文

被告が原告に対して、昭和三五年八月八日付をもつてなした、株式会社横溝商店に対する昭和三一年度ならびに昭和三三年度法人事業税および法人県民税につき原告を第二次納税義務者としてその納付を告知した処分中昭和三一年度および昭和三三年度法人事業税に関する部分を取り消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は六分し、その一を原告のその余を被告の各負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

原告が被告に対して、昭和三五年八月八日付をもつてなした、株式会社横溝商店に対する昭和三一年度ならびに昭和三三年度法人事業税および法人県民税につき原告を第二次納税義務者としてその納付を告知した処分(以下「本件納付処分」という)は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二、被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、事実上の主張

一、当事者間に争いのない事実

(一) 訴外株式会社横溝商店(代表取締役原告。以下「横溝商店」という。)は、荒物・雑貨・家庭用品等の販売を目的として設立されたが、昭和三五年五月二五日解散し、目下清算手続中である。

(二) 被告は、昭和三五年八月八日原告に対して、横溝商店には

昭和三一年度法人事業税

二一四、三二〇円

法人県民税

四三、九一〇円

昭和三三年度法人事業税

一六八、四六〇円

法人県民税

二九、四六〇円

および過少申告加算金、重加算金につき滞納があり、そして原告には地方税法第一一条の六により右租税債務の第二次納税義務があるとして、その納付を告知し、さらに原告所有の別紙第三目録記載の土地および倉庫(以下「本件土地」「本件倉庫という)を差押えた。

(三) そこで、原告は昭和三五年九月七日被告に対し異議申立をしたところ被告は同年一一月七日加算金・重加算金・延滞加算金・督促手数料等の賦課処分を取消したが、前記税額処分についてはこれを棄却する旨決定し、その頃原告に通知した。

二、被告の主張

(一) 横溝商店は、昭和三一年度および昭和三三年度において別紙第一目録記載のような事業所得および法人税の課税処分があつたので、被告はこれにもとづいて、昭和三五年六月二八日横溝商店に対し、

昭和三一年度分法人事業税

二八三、三五〇円

法人県民税(法人税割)

五六、〇一〇円

過少申告加算金

二、二九〇円

重加算金

五九、四七〇円

昭和三一年度分法人事業税

一六八、四六〇円

法人県民税(法人税割)

二九、四六〇円

過少申告加算金・重加算金

三三、六二〇円

とする旨の更正決定をなし、同月二九日を納付期限と指定して納付告知処分(但し、昭和三一年度の法人事業税については六九、〇三〇円がまた法人県民税については一二、一〇〇円が各納付済であるので、この分を控除した金額)をしたところ、横溝商店は右納付期限が経過するも、これを納付せず滞納した。(右法人事業税および法人県民税の各金額の算定根拠は、別紙第一目録記載のとおり。)

(二) そして、次のような事情があるから、原告には、横溝商店の右法人事業税および法人県民税債務につき、地方税法第一一条の六第二号所定の第二次納税義務がある。

1、横溝商店は、その所有財産の大部分を訴外横溝物産株式会社に譲渡した後に解散したため、前記滞納のあつたときには無資産であつて、これから徴収することは不可能である。

2、横溝商店の発行済株式の総金額は八〇〇、〇〇〇円であるが、その株主およびこれが有する株式金額は別紙第二目録記載のとおりであり、そのうち原告とその妻静子および原告の母与志の三名が有する株式金額は合計四〇〇、〇〇〇円であるので、同商店は法人税法第七条の二第一項第一号所定の同族会社に該当し、原告はその判定の基礎となつた株主に該当する。

3、原告は、本件土地および本件倉庫を所有し、これを横溝商店に対してその設立当初から引きつづき貸与して来た。そして、同商店は、これを事業の遂行上欠くことのできない重要な営業財産として、使用して来た。

すなわち、横溝商店の営業する荒物・雑貨・家庭用品の卸売小売業においては、その事業遂行のためには、商品を保管する倉庫が必要不可欠なのである。そして、同商店は、倉敷市戒町五〇八番地所在の本店と店舗二ケ所のほかに、倉庫七ケ所を使用しているのである。そして、そのうちでも本件倉庫は、営業の主体をなす本店から至近距離内にあるうえ、収容力も大きく、また賃貸料も安かつた。そのため、同商店は、倉敷市戒町五〇八番地所在の本店と店舗二ケ所のほかに、倉庫七ケ所を使用しているのである。そしてそのうちでも本件倉庫は、営業の主体をなす本店から至近距離内にあるうえ、収容力も大きく、また賃貸料も安かつた。そのため、同商店は、その全保管商品のうち約半数を、本件倉庫に保管していた。そして、このような経済的好条件をそなえている本件倉庫に代りうべき倉庫が他に見付かるとは思われないし、さらには、営業収益のあまりよくなかつた横溝商店においては、他にこれに代るべき倉庫を新規に調達することなど全く不可能であつた。

4、本件倉庫についての適正賃料は、極く控え目に算定しても月額一二〇〇五円(岡山県内においては、坪当り月額三五〇円から一、〇〇〇円位が妥当な価額とされているところ、この三五〇円を延坪数34.3坪に乗じた数値。)となる。

しかるに、原告は、これを昭和三四年三月三一日までは無償で、同年四月一日以降解散までは月額一、〇〇〇円の賃料でもつて、横溝商店に貸していた。したがつて、この適正賃料額と横溝商店が実際に出捐した額との差額は、本件倉庫より生じた所得であつて、これを同商店は取得したのである。

三、原告の主張

被告の主張事実のうち、(一)については事業所得に関する部分を否認する。当該年度には、横溝商店には事業収入はなかつた。(二)の1のうち、同商店が無資産である事実、同2の全事実、同3のうち、原告が本件土地および本件倉庫を所有し、これを横溝商店に対しその設立当初から引きつづき貸与して来た事実は認め、同商店がこれを事業遂行上欠くことのできない重要な財産として使用して来た、との事実は否認する。横溝商店の使用していた営業所等の使用状況は別紙第四目録記載のとおりであつて、この記載の各物件のうち先順位のものほど重要であつた。同4の事実のうち本件倉庫の賃料額を否認する。賃料額は、昭和二六年三月より昭和二九年三月までは月額五、〇〇〇円を徴収し、昭和二九年四月より昭和三四年二月までは横溝商店の営業不振のため賃料の徴収はしておらず、また昭和三四年三月より昭和三五年五月までは月額二、〇〇〇円を徴収していた。

第三、立証<略>

理由

一、法人事業税について。

被告は、横溝商店が昭和三一年度には二、四四四、六〇〇円昭和三三年度には一、六五三、九〇〇円の各事業所得を得た旨主張する。しかし、同商店に被告主張金額の所得が生じたことを首肯するに足る事実については何ら主張立証されておらないから、この所得の存在を認めることはできない。そうすると、本件納付告知処分中法人事業税に関する部分については、その余の点を判断するまでもなく、違法というべく取消しを免れない。(なお、<証拠>によれば、被告は、同税務署長の横溝商店に対する前記年度における法人税の課税標準たる所得額を基礎として、法人事業税の課税標準たる所得額を確定した事実が認められるが、しかし、この法人税の課税標準たる所得額が正当であると認むるに足る資料もないから、右算定方法をもつて確定した所得額が正当であると認めることはできないことは、地方税法第七二条の規定から当然である。)

二、法人県民税(法人税割について)。

前記当事者間に争いない事実および<証拠>により認められる事実は、次のとおりである。

(一) 横溝商店は、昭和三一年度ならびに昭和三三年度において各々一、〇三七、三五〇円ならびに五四五、七八〇円の法人税の賦課処分を受けた。そこで、被告は昭和三五年六月二八日被告に対して、右金額に岡山県条例度三七条所定の税率を乗じて得た金額を法人県民税(法人税割)の課税額に定め、そのうちからすでに納付済の金額を控除した残額である、昭和三一年度分二九、四六〇円について、納付期限を同月二九日に指定して納入告知をしたが、同商店は右期限になつてもこれを納入しないで滞納した。(右税額の算定経過は、別紙第一目録記載のとおり。)

(二) そして、横溝商店は、その保有財産の大部分を昭和三五年五月二三日設立の横溝物産株式会社に譲渡した後同月二五日に解散したので、右滞納が生じたときにはすでに無資産であつて、右滞納税金を納付する能力はなかつた。

(三) 横溝商店の発行済株式総金額は八〇〇、〇〇〇円であるが、そのうち四〇〇、〇〇〇円を原告とその妻静子および原告の母与志の有する株式で占めていた。

したがつて、同商店は法人税法第七条の二第一項第一号所定の同族会社に該当し、原告はその判定の基礎となつた株主に該当する。

(四) 横溝商店の目的とする営業は、荒物・雑貨・家庭用品の卸売小売業であるところ、その事業を遂行するためには商品格納用の倉庫の確保が必要不可欠であつた。そこで、同商店は、別紙第四目録記載の倉庫七ケ所(延面積約四五〇平方米)を他から借りて使用していた。

そして、原告は、その所有にかかる本件土地と倉庫および倉敷市戒町五〇八番地所在の本店内の倉庫の一部六五平方米を、同商店にその設立された昭和二六年三月以降貸与しており、なかでも、本件倉庫は、同商店の営業店舗(後年は、本店よりも倉敷市元町四九五番地所在の店舗の方に、営業店舗の重点が移つていた。)からも遠くないという立地条件の良さと収容力が大きいことから、同市元町五一二番地所在の倉庫とともに枢要な役割を担い、この両者で全保管商品の約半分を格納し、そしてそのうち四分の三は本件倉庫に格納していた。

そのため、横溝商店は、原告から借りている本件倉庫がないとすれば、少くともこれに代るべき倉庫を他から調達するか、あるいはこれまでよりも相当程度に営業規模を縮少しなければ、事業の遂行はできない状況にあつた。(なお、同商店の営業収益上新規にこれに代るべき倉庫を他から調達することは不可能であつたとの事実は、後に認定するごとく、右両倉庫の使用対価が著しく安かつたにしても、このことのみによつては右事実は認めることはできない。)

(五) ところで、原告は本件倉庫を貸与するにあたり、同商店設立の時以降昭和三四年三月三一日までは無償とし、同年四月一日以降同商店解散の頃までは月額一、〇〇〇び円の割合の賃料を徴収していた。しかし、当時岡山県下における倉庫賃貸料の適正価額は3.3平方米当り月額三五〇円を下らなかつたから、本件倉庫の適正賃料は、月額一二、〇〇〇円を下らなかつた。そうすると、横溝商店においては、本件倉庫を適正額のの対価を支払わずに使用して来たのであるから、その本来支払うべき適正額から現実に使用対価として出捐した額との差額につきその出捐を免れ、よつてそれに相当する利益を得たことになる。そして、この利益は本件土地、倉庫に関して、横溝商店において生じた所得となる。

(六) 昭和三五年当時の本件土地および本件倉庫の固定資産評価額は、五三、九六六円と二〇一、〇〇〇円であつて、この両不動産の価額だけでも横溝商店の前記滞納税額をはるかに超えている。

以上の事実によれば、横溝商店には、法人県民税(法人税額)の昭和三一年度分四三、九一〇円昭和三三年度分二九、四六〇円の納付義務があり、しかも、同商店のこの納税義務につき、原告が地方税法第一一条の六所定の第二次納税義務者にあたることは、明らかである。

三、結論。

そうすると、結局、被告の原告に対する本件納付告知処分のうち、横溝商店の法人県民税の滞納額に関する部分については適法であるが、同商店の法人事業税に関する部分については、違法としてこれを取消すべきことになる。したがつて本件納付告知処分全部の取消しを求める本訴請求は、右取消すべき部分においてのみ正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条・第九二条本文を各適用して主文のとおり判決する。

(柚木淳 井関浩 木原幹郎)

目録<略>

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